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天城越え   (1983・松竹=霧プロ)
■ジャンル: サスペンス
■収録時間: 99分

■スタッフ
監督 : 三村晴彦
製作 : 野村芳太郎 / 宮島秀司
原作 : 松本清張
脚本 : 三村晴彦 / 加藤泰
撮影 : 羽方義昌
音楽 : 菅野光亮

■キャスト
田中裕子(大塚ハナ)
伊藤洋一(小野寺建造・中学時代)
渡瀬恒彦(田島松之丞)
平幹二朗(小野寺建造)
吉行和子(建造の母)
天城越え
田中裕子という日本が誇るべき女優の「女の業」そのものな立ち振る舞い、そして、表情。彼女には「女の持つ底なしの情念」があった。そして、彼女には狂気があった。そんな彼女の存在があったからこそ、突きつけられた一つの問い。「少年が大人になるということは、どういうことなんだろうか?」が観ているものたちの胸に去来するのである。

■あらすじ


印刷屋を営む小野寺健造(平幹二朗)の元に老人が一冊の印刷物を持ってやってくる。その冊子に書かれた「天城山の土工殺しの事件」の文字に、14歳の夏に思いをはせる健造だった。母親と伯父の姦通を目撃し、失望の中家出した健造が、天城峠で裸足で歩く女郎ハナ(田中裕子)に出会ったあの夏の日の思い出・・・


■非常に残念な陳腐な描写の数々


天城越え
最初にこの作品の残念な部分だけ―致命的なまでの―を羅列してみよう。そうすることによって、後の文章をこの作品の素晴らしい部分にだけ費やしたいからである。

一部の過去の回想シーンで、明らかに不釣合いな音楽が使用される。それがせっかくの世界観をぶち壊しにしてしまうのだが、
特にルルルーというあの微妙なハミングとギターの伴奏の部分の音楽には、テレビという小さな画面の四方には行き渡る力があっても、スクリーンという大きな四方には全く行き渡らずに分散していく類いのすかすかな安っぽさに満ち溢れていた。

そして、何よりも映画的に残念で仕方ないのが、3回同じシーンを連続してリピートするあの世界中の映画史上「驚異的にセンスを疑うシーン」だった。そのリピート行為が監督がいかに田中裕子という女優の力量を信じていなかったかが良く分かる。

あのシーンは何回も繰り返す必要なぞないシーンだった。コレは映像の文法云々のレベルでなく、視覚芸術の範疇において、
同じシーンをリピートしてみせる技法は「私は自分の映像に自信がありません」と言ってるようなものなのである。素晴らしい絵は一回で十分なのだ。むしろ繰り返すことによって逆に陳腐さが生み出されてくるのである。

芸術や美しきものを愛する「人間」という生き物は、強制された押し付けの美的センスには、そっぽを向いてしまうものである。この演出はお笑いのテレビ番組で会話と同じ文章をテロップで流している感覚そのものである。
徹底的なまでの観客に対する丁寧さ=「観客の感受性に対する不信感」。そして、その根底にあるのは、紛れもなく監督自身の感性に対する不信感なのである。

そして、もう一つ、母と伯父が、ハナと土工が獣のように姦通するシーンの迫力のなさ。ここらへんは、やはりホンモノの編集能力が試される箇所であった。情欲が渦巻く、近親相姦や野外の姦通の野獣性が、思ったほど映像からにじみ出ていない点が、最も重要な健造のトラウマの構築に説得力をもたらさなくなってしまったのである。

本作の監督である三村晴彦という人は、長年の苦労の末に40代にして初めてこの作品を撮る機会に恵まれたので、情熱が空回りしている以上のような陳腐な手法も見受けられるが、それは一重に他の部分が素晴らしいからこそ目立ったということとも言えるのである。


■少年の未経験の性欲が、憎悪を生み出す


天城越え
上記の要素から、殺人の動機は極めて不可解なものになったのである。特に女性の鑑賞者にとってはかなり不可解であろう。しかし、物語を追っていけば多くの素晴らしい要素にも気づかされる。

14歳の少年健造が母親と伯父が獣のように性欲を発散している姿を目撃し、ショックを受け家出する。そして、修善寺に向うのだが日も傾き淋しさも増し、やはり下田に戻る決意をする。そんな時女郎屋を抜け出した妖艶な女郎ハナに出会い、惹かれ、共に道中を歩くようになる。健造の怪我をした足を直してくれる瞬間。さらに股間までなでさすられ少年の青い性は否応なしに刺激される。

すっかり心地良い気分で一緒に歌を歌って野宿する場所(勿論少年は初体験を終える気まんまんでいる)を探すのだが、そんな時に、道の前の方を歩く土工の姿が目に飛び込む。そして、女は「あの人に用事があるから先に行って」と言って、少年を邪険にし、その小汚い土工と竹やぶの中で獣のように姦通する。その姿を目撃しショックを受けた少年は、女が去った後に、土工をめった刺しにして殺してしまうのである。

そもそも全ては思春期の少年が、母親の近親間の性交を目撃してしまい、嫌悪感を感じることである。このことが全ての深層心理に影響していく。この嫌悪がより歪んだものになったのは、少年自身も魅力的だと感じている母親が性交している姿に、興奮してしまっている自分がいるからである。

この伯父が、母を抱くのなら、オレが抱きたい!これが深層心理に影響を及ぼす一つの記号になっていくのである。

惹きつけられてはいけない行為に惹きつけられると、人間はそれをより嫌悪するようになる。
この複雑な心理を解放するために健造は旅に出たのだが、結果的にこの旅が、彼の嫌悪感を爆発させる出来事に遭遇させる旅になるのである。健造にとってハナとの一時が叙情的で官能的であればあるほど、獣のような男に身体を許すこの女と男の行為は許しがたい嫌悪感を生み出したのである。

健造は確かに性的な興奮を覚えた、しかし、少年はそれを押さえつけるために、性的欲望を打ち消すために嫌悪感を増長させた。その瞬間土工は、母とまぐわっていた伯父にも見え、ハナ自身、そして、母親自身にも見えた。彼はそれらの憎悪を打ち砕くかのように刃物を振りかざし、振りかざし土工を殺害したのだった。


■伊豆の踊子のように・・・


「私も川端康成の名作『伊豆の踊子』みたいに天城を越えたことがあった」


〜私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺がすりの着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。修善寺温泉に一夜泊り。湯が島温泉に二夜泊り、そして朴歯の高下駄で天城を登って来たのだった・・・〜『伊豆の踊子』ヨリ

この回想シーンから、実に見事に緑豊かな日本の山河へと場面は転換されていくのである。その緑の断層が重なり合い真っ暗闇が森を包んでいく。その陰鬱さ、昼間でも淋しい雰囲気が、健造に旅の道ずれを求めさせるその姿から回想シーンは始まる。

登場してすぐに感情移入できるこの健造を演じる伊藤洋一が素晴らしい。そして、この少年の服装がまた良い。この子役の安定感があったからこそハナを演じる女優の奔放な魅力は発散されたのである。


■少年が目にする素足、腰、赤い唇・・・


そして、少年は1人の女性に出会うのである。以下原作より

陽は山に落ちて、あたりは薄暗く暮れかかった。私はひとりになって、いよいよ下田に引き返す決心をした。
が、振り返っても、この道には人ひとり歩いていなかった。私はその場に、しばらく立ちどまった。

すると、そのとき、修善寺の方角からひとりの女が歩いてくるのが目についた。
その女が近在の農家の女でないことは服装ですぐに分かった。
その女は頭から手拭いをだらりとかぶっていた。
着物は派手な縞の銘仙で、それを端折って下から赤い蹴出しを出していた。
その女はひどく急ぎ足だったが、妙なことに裸足であった。


こうして健造は1人の運命的な女性ハナと出会うことになるのである。


■ハイッ〜ハイだってぇ〜


天城越え 天城越え 天城越え
ハナを演じる田中裕子(1955− )。この作品の全てを凝縮しているのは、彼女の存在である。間違いなくこの作品は彼女の代表作であり、日本を代表する女優と言われるに値する芝居を披露した作品だった。

健造にしなだれかかる姿の、艶やかさ。そして、何よりもこの日本語の話し方。男ならこんな女に間違いなくメロメロにされるだろう。
「あにさ〜ん・・・じゃ丁度いい、一緒に連れてって・・・」この台詞回しと一連の仕草の魅力は「しっとり」という言葉で言い表せるだろう。最近の女優も芝居の中でこういう口調をよく使うのだが、大概はただの女郎的な雰囲気しか生み出さない。しかし、彼女の場合はなんか芯の強さを「しっとり」とした口調から生み出しているのである。

田中裕子
「あたしはハナ。そう、咲いた、咲いたのハナ」

浄蓮の滝を通り過ぎる時に健造に言うこのセリフ。叙情的なピアノの音色に見事にマッチしている田中裕子の声の美しさと伊藤洋一の清々しさ。


■少年は路傍で男の嫉妬を覚える


田中裕子 田中裕子 田中裕子 田中裕子
そして、足を怪我した健造が路傍でハナに手ぬぐいで優しく手当てされる瞬間のこの妖艶さと優しさ。
足先に感じるハナの手の温もり、吐息が、健造の脳髄にまで到達するほどの魅惑のひととき。姉のように母のように、他人の女性に初めて優しくされる瞬間。

手当てを受けながらハナの肉体を上から見下ろす健造。そして、ふとハナにそそり立った下半身をなでさすられる。「たのもしいじゃない。あら嫌だぁ〜意気地なシィ〜」しかし、そのハナには女としてよりも弟のような健造を慈しむ女の母性的な表情に満ちていた。

田中裕子 田中裕子 田中裕子
ここまでの女性に優しくされた魅惑的な異性との接触の瞬間と、女性に冷たくあしらわれる瞬間。優しさに包まれているハナが、わずか1円の金に目の色を変えて、獣同然の男と身体を交わす姿を見てしまう衝撃。まさに観ている側までもが儚くなってしまう瞬間である。


■雨が洗い流す「ハナの愛なき生涯」


天城越え 天城越え
これらの
ハナの美しさと醜さ、温かみと冷たさ、親しみと妖艶さの対比が、ほとばしるように観ている側に排出されることに強烈な実感が生みだされるのも、それ以前に描かれているあの一連の取調べにおいてのハナの姿を事前に見せ付けられているが故である。

健造が、罪を押し付けることによって滅ぼそうとした女ハナが、刑事たちにはばかり(トイレ)にも行かせてもらえずに自白を強制され、小便を漏らしながら焦燥した表情で自白していく過程。そして、雨の中袈裟を頭からすっぽりと被らされ、護送されていくその姿。

天城越え 田中裕子
その袈裟を振り落とし、健造に投げかけるあの眼差しの持つ意味。あれは菩薩様のような表情なのだろうか?そして、少年の一生を決定付けた「さよなら」という声にならない口の動き。もはやそこには妖艶な年上の女性の姿ではなく、姉のような慈愛に満ちた女性の姿があった。

その瞬間、少年はハナを罪に陥れた自分に対しての悔恨の念にかられ、ハナは、たかだか1円の金ごときのために血相を変えて、少年の存在を邪険にした自分のバカらしさを詫びていた。少なくともハナはこの時点で犯人は少年であることを知っており、彼女はこの少年のその行為が自分に対するどういう感情から生まれたかということを何となく理解していた。だからこそあの「さよなら」の慈愛の言葉に繋がったのである。

そう、金の繋がる大人の情愛行為しか知らなかった23歳のハナが、14歳の少年に対して純粋な情愛行為を渇望した瞬間でもあったのだ。少年によって輝きをましたハナのその姿は、土工によって汚れをましていくハナの姿でもあった。人はその相手によって輝きもすれば、汚れても来る。天城峠では娼婦の汚れを雨が洗い流したが、心までは洗い流せなかった。だから土工へと走っていった。しかし、最後のハナを包み込んだ雨は彼女の心まで洗い清めてくれたのだった。だから彼女の死に顔は菩薩のようだった・・・


■女性に初めて傷つけられた時、少年は大人になる


自分がその女のために他人を殺してやりたいと思える女性に出会えなかった人生ほど不幸な人生はないのかもしれない。
そして、年上の女性に対する少年の苦々しくも青い幻想が打ち破られる瞬間。自分自身のそんな瞬間を思い出させてくれる作品でもある。男にとって永遠の傷であり宝物でもあるこの瞬間。

本作の原作は松本清張による『天城越え』である。1959年に『サンデー毎日』に掲載された短編小説であり、女郎が静岡県で実際に起こした事件を題材に脚色した作品である。ちなみにテレビで1978年に大谷直子主演で、1998年に田中美佐子主演で映像化されている。

何気に本作で、健造の印刷屋の事務員の女性役でモデルのような綺麗な女性が出演している。榎本智恵子(1963− )である。彼女はなんとエノケンの娘だという。

− 2007年9月7日 −


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