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ガス人間第1号   THE HUMAN VAPOR(1960・東宝)
■ジャンル: 特撮
■収録時間: 91分

■スタッフ
監督 : 本多猪四郎
製作 : 田中友幸
脚本 : 木村武
撮影 : 小泉一
音楽 : 宮内国郎
特技監督 : 円谷英二

■キャスト
土屋嘉男(水野)
八千草薫(春日藤千代)
三橋達也(岡本賢治)
左卜全(老人鼓師)
佐多契子(甲野京子)
ガス人間第1号
八千草薫の和服が似合う美しさ。和服というものがいかに日本人女性の表現を豊かにする衣服かという事を改めて実感させられる。その古来の日本の物の怪のような彼女と、科学技術が生み出した物の怪であるガス人間・水野の交わりが、特撮映画の領域を一つの高みにまで押し上げ、邦画史上価値ある作品の一つへと昇華させたのである。

■あらすじ


今は名家の名も廃れた日本舞踊春日流の家元・藤千代(八千草薫)を、助けるために大金を援助する水野(土屋嘉男)は、実はガス人間だった。その特性を生かし、孤立無援の藤千代が発表会を開くために銀行強盗によって金銭を工面している。やがて警察も連続的に銀行強盗を繰り返す水野の存在を知り、事態は急展開すていくのである。


■名花・八千草薫の才能の昇華


八千草薫 八千草薫
八千草薫(1931− )の美貌の極致。やはり日本人女性の究極の美は着物によって昇華される。
着物が日本人女性の美を最も引き出す理由は、奥ゆかしさ、柳腰のような造形美、凛とした表情、あくまでも静かに漂う気品が引き出される所にある。

特撮映画の中でも明確に異色を放つこの作品の魅力は何と言っても、彼女の存在感と土屋嘉男(1927− )と左卜全(1894−1971)という黒澤組の名脇役を主演格に配したところにある。土屋嘉男の存在感などは、その眼の動き一つとっても素晴らしいほどの「本気」ぶりに満ちている。

この3人のかなり浮世離れした雰囲気がこの作品に一種独特の趣を示しているのである。


■影をより浮き上がらせる灯りの存在


ガス人間第1号
そういった世界観に対極する形で存在する世界観を示すのが警部補岡本を演じる三橋達也(1923− )とその恋人で新聞記者の京子を演じる新人・佐多契子である。三橋達也の存在は極めて現代的な軽さを示していた。そして佐多も新人ながら明るい娘で、その芝居の拙さをカバーするはつらつとした魅力を発散している。

つまり、この二人は明確に物語を完結させるために必要な役柄の二人でしかなく、前記の3人を浮き上がらせるための存在でしかない。
しかし、この二人の突き抜けた明るさがあればこそ、物語の陰鬱さが、見事なまでに対極の明るさの存在により焦点が絞られる形となったのである。そういった意味においてはやはりこの二人の存在は本作において重要なのである。


■三人の物の怪の物語


八千草薫 八千草薫
「ちょっとこの世の人間とは思えないよね」
という岡本のセリフといい、京子が「相当なお年よ」というセリフからして、藤千代は年齢は不詳だが、相当な年齢であることが示唆されている。田舎の邸宅に身を潜め、生きている藤千代は、高度経済成長真っ盛りの日本社会についていけない恐らく古来の物の怪なのだろう。

冒頭邸宅で舞の稽古に励む時、般若のお面をつけて舞っている。
般若のお面とはつまり女性のほとばしり出る怨みの情念を仮面に託し具現している。この面をつけて舞う藤千代のぞっとするほどの物悲しさ・・・そこには明確に情念の欠如した、一流の舞姿による空疎な舞いが存在している。

そして、般若の面を取る藤千代の、はっと息を飲むほどの美しさ。まさにこの世のものとは思えない美。この納得のいかない自分の芸に対する戸惑いと諦めの表情が・・・後の水野の行動につながっていくのである。発表の場もなく満たされない舞いを舞い続ける古来からの美の物の怪・藤千代。

藤千代を演じた八千草薫は、さすがに宝塚歌劇団出身の女優であり、日本舞踊の造形も深く、当時20代後半にして見事な舞い姿を披露している。


■二人の情鬼が蒸気と化して昇華す


「ガス人間とかっていいますけど、それ以上に素晴らしい映画だとおもいますよ」


土屋は撮影中に八千草にこう語ったという。この土屋の見識の中に実はある種の企みが見えてくるのである。1960年の高度経済成長期の日本に、浮世離れした物の怪=藤千代と科学が作り出した物の怪=ガス人間の奇妙な恋愛=共犯関係。それがこの作品のメインテーマである。

ガス人間・水野は科学者の人体実験の不慮の事故より生まれたミュータントであり、彼は変化自在に気体化出来るのだが、その能力の変わりに自分がいつ
「ガスになったあと戻らないで消え去っていくのか」分からない状態にいるのである。

一方、藤千代はただただ生きがいのある舞いを見せる事を求めていた。しかし、彼女は大衆の前で発表することには全く拘っていない。そんな時何か満たされない舞いに対する気持ちを、水野の無垢ともいえる愛情によって揺す振られたのである。最初は資金援助のいい道具と考えていたのだが、彼がガス人間であり、彼女の為に犯罪に身を染めていることを知るにつれ、彼女は気づくのである。
「そう私に欠けているのは滅びに対する情念なのだ」と。

そして、水野と共犯関係になることにより、大ホールで共に滅ぶ事を筋だてる事によって、最後の舞いを本当に納得のいく般若の面をつけた舞いを舞うことが出来たのである。だからこそ死を望んでいなかった水野を強引に心中の道連れにするのである。彼女はこの瞬間般若の舞いを成就した上、般若としての人生の成就も成し遂げたのである。

本物の芸術家は、人間的な感覚を越えた次元を優先し、そのために死ぬことも厭わない存在のことのみを示す。それを分かりやすく実践した作品なのである。芸術家には愛は不毛である。


■ガスマン!いい響きだね


ガス人間第1号
悪魔か 宇宙の落と子か 完全犯罪に賭けるガスマン!


素晴らしい遊び心溢れるレトロなキャッチフレーズ。特にガスマンという限りなくB級な響きが素晴らしい。そのキャッチフレーズに負けない程の円谷特撮も、物語をサポートする役割を見事に果たしている。ガス人間が、気体化していく工程なぞは実に素晴らしい。八千草自身が円谷特撮について言及している。
「この頃は手作りなので見ていてどきどきしますね」この円谷特撮に対する捉え方はかなり鋭い。

手作りだからこそ、思い通りにいかない特撮ゆえ観ている側もハラハラさせられるのである。つまり、
昔の特撮はいかに達成するかが焦点であり、現在の特撮=CGはいかに見せるかが焦点なのである。


■ラストシーンの曖昧さが生み出す余韻


ガス人間第1号
最終的に藤千代が水野を愛していたのか、ただ単にお互いの置かれた状況の共通点から心中したのかは、見ている側の判断に任されている。さらに最後の死体に関しても、藤千代の着物を引きずったガス人間なのか藤千代自身なのかも曖昧にされている。

ある意味この曖昧さが生み出す余韻が、本作にただならぬ物語としての広がりを与えたといえるだろう。

本作は、『透明人間』(1954)、『美女と液体人間』(1958)、『電送人間』(1960)と続く東宝変身人間シリーズ第四弾である完結篇である。1964年に81分バージョンでアメリカ公開され好評を博した。

− 2007年7月17日 −


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