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犬神家の一族   (1976・角川春樹事務所)
■ジャンル: サスペンス
■収録時間: 146分

■スタッフ
監督 : 市川崑
製作 : 角川春樹 / 市川喜一
原作 : 横溝正史
脚本 : 長田紀生 / 浅田英一 / 岩下輝幸 / 日高真也 / 市川崑
撮影 : 長谷川清
音楽 : 大野雄二

■キャスト
石坂浩二(金田一耕助)
高峰三枝子(犬神松子)
小沢栄太郎(古館弁護士)
坂口良子(女中はる)
島田陽子(野々宮珠世)
犬神家の一族
湖畔の逆さ死体∞スケキヨのマスク∞ヨキ、コト、キク≠ワさに角川お祭り♂f画第一弾に相応しい傑作。日本的様式美に溢れる映像と不屈の名優たちの熱気と坂口良子の可愛さに満ち溢れた横溝ワールドの決定版。次作『悪魔の手毬唄』にて成就されるこの世界観の構築の過程を堪能せよ。

■あらすじ


犬神佐兵衛(三国連太郎)の遺言状の公開と共に、次々と起こる奇怪な殺人。遺言状の立会人である金田一耕助(石坂浩二)が事実の解明に乗り出すのだが、そこには過去の衆道の契り、姦通といった事実が浮かび上がる。遺産相続を巡り暗躍する犬神家の一族の醜い欲望の中に隠された悲しい過去・・・


■70年代の角川映画はお祭り♂f画だった


犬神家の一族
70年代の角川映画はお祭り♂f画だった。それはクオリティが高いとか低いとかそういう話ではなく。一種の熱狂できる村のイベントみたいな部分があった。そして、この時代にはまだ過去の芸達者な祭り人≠スちが存在していた。

やがて、角川春樹に追随し、多くのお祭り♂f画が生まれたがそれは、段々と芸達者な人々の不在な祭り≠ナはなくただの見掛け倒しの映画に成り下がっていた。それは現在において益々加速し、本作のリバイバルなぞは既にネタのつきた日本映画界の象徴となってしまった。

本来ならば新しいシナリオを発掘しようとする努力くらいすべきなのだが、もはや簡単に金儲けをしようとする過去を食い物にする発想でしか映画人の多くは動いていないのである。
有能は産みの苦しみを経験≠オ、無能は産まれたものを盗み取る経験≠するのである。


■偉大なるオリジナル版『犬神家の一族』


そういった意味においては角川春樹は素晴らしい映画製作者の一人だった。その考え方やバブル思考的な所は置いておいてであるが、彼が日本映画に残したプラスの遺産は大きい。そして、彼は間違いなく産みの苦しみを経験≠オた一人であった。

とにかくこの作品は空回りではないパワーに満ち溢れている。一方、言うまでもないがリバイバル版は明確に空回りだった。
見ている途中に詐欺∞こけおどし∞拝金主義∞役者の線の細さ∞時間の浪費≠ニいう言葉が頭によぎるくらいの「昨今量産されているこけおどし映画の一つ」だった

全ては役者の芝居に対する姿勢である。小沢栄太郎、高峰三枝子この2人がこの作品において恐ろしいほどのウェイトを占めている。栄太郎が脇をがっちりと引き締め、高峰が根幹をがっちりと引き締める。だからこそ安心して2人の若き役者=石坂&島田は、その世界観の中で演じきることが出来たのだ。

2人の名優の生み出した重厚さがあったからこそ横溝ワールドが映像として再現できたのである。


■重厚さを生み出す第一の要素はやはり役者ありき!


オープニングに日本家屋の佇まい自体を描写することは古来より多くの日本の映画人が行ってきたことだが、市川崑のそれも実に美意識に溢れる映像美である。そして、大広間に控える犬神家の面々と金の屏風。さらには高峰三枝子(1918−1990)の「お父様。ご遺言は?」の一言。この一言がさらりと言える所が素晴らしい。こういうシーンで最近の女優がよくやる溜めの芝居なんてものを彼女の場合はしない。

さすがに感情表現の能力に長けていた高峰は良く知っている。
感情の表現において溜めの芝居は、舞台においては効果を発するが、クローズアップが多用される映画においては不要である。映画においてやり過ぎなくても十分に実際の人間の何十倍もの大きさで映し出されるので感情の起伏は目立ちすぎるほど目立つのである。

最近の女優、男優の芝居の青臭さが中年俳優においても目立つのは、ここが理解できていないからである。テレビでいつもやっている。または舞台でやっている芝居を映画でしていたら、臭い芝居に見えてしまうのである。ましてや映画と張り切って熱演する類いの邦画は、あまりにも青臭すぎて見ちゃいられないのである。

「お前はどういう風に自分が映し出されるか考えてないのか?」
現在の俳優は、昔の俳優よりも、ダメでも技術でカバーしてくれと言う馴れ合いの芝居が増えていることなど、観客は100も承知で感じているのである。

やや脱線したが、話を本編に戻そう。高峰三枝子の姿の次に遺言の管理を任されている小沢栄太郎(1909−1988)が映し出される。三国連太郎→高峰→小沢→島田という流れでこの作品は始まる。この冒頭の流れがわずか数十秒で観客を昭和22年の犬神家の陰鬱な古き日本のおどろおどろしい世界に誘うのである。

そして、もはや最後にバトンを渡された島田陽子は黙っているだけで許されるのである。つまり、島田陽子が話さずとも価値を生み出すことの出来る空間を三名優が作り出してあげているのである。これが役者の
見えざる名演の効果なのである。


■建築・音楽・漢字→佇まい・淑やかさ・整然さ=和の空間


『ルパン三世』でお馴染みの大野雄三の音楽がいい間合いで鳴り響く。特にテーマ曲が実に淑やかさに満ちていて素晴らしいのだが、それ以上に素晴らしいのが、蛙か鵺が鳴いてるような、冒頭を始め所々に奏でられる不協和音の使用である。セピア色で犬神製薬の歴史が映し出される時に流れる音の組み合わせなども実に素晴らしい。

うるさいだけの音楽が幅を利かせる騒音ではないこの和の雰囲気をベースにした音の作りを聞いていると、
「日本人よそろそろ無理はせずに和の音感≠ノ振り返ってみなよ」と言いたくなる。

そして、このタイトル・クレジットの
漢字の配列の美意識≠フ美しさ。黒と白こそが古来からの日本的な様式美の基本である。そして、斧(よき)、琴、菊∞佐清・佐武・佐智∞松子・竹子・梅子≠ニいう見事な漢字の組み合わせによる世界観の構築も、この作品の成功の根幹を担っていると言えよう。これらの要素が古くからの日本家屋の佇まいと相成って最高の魅力を発する結果になったのである。


■やっぱり坂口良子がイチバンかわいい!


坂口良子 犬神家の一族
金田一耕助を演じる石坂浩二(1941− )と女中を演じる坂口良子(1955− )。この2人が本作のいい息抜きになっている。そして、言うまでもない事実だが、坂口良子が映画史上類い稀なる可愛らしさに満ちている。特に金田一と初対面の時のあの疑いの眼差し。更に旅館で金田一がフケを落とした時のあの表情すべてが愛らしさに満ちている。

この坂口良子演じる女中はるちゃんが作った昼食を平らげた金田一に「全部私がこしらえたのよ。何が一番おいしかったぁ?」と尋ねるシーンがある。仕事に熱中し上の空で「なまたまごぉ〜」と答える金田一に「まぁ〜ひどい!」と障子をびしっと閉めるはるちゃん。本当におどろおどろしい空間で、ホッとさせてくれる掛け合いである。

「探偵さ〜ん・・・これからどこ行くの?探偵に行くの?ついていってあげましょうか?ついてくわぁ〜」と言いながら風呂敷に包まれた洗濯物を背負いながら、がに股気味に追い掛けてくるはるちゃん。そして、金田一に逃げられた後の表情が何とも可愛すぎる。
なんかはるちゃんの一連のシークエンスを見ているとこの作品自体が「坂口良子のために作られた作品」と錯覚するほどにはるちゃんが輝いてるのである。

ちなみにはるちゃんが女中をしている那須ホテルの日本家屋の雰囲気が実に美しいのだが、この那須ホテルのロケは今も長野県佐久市に存在する井出野屋旅館で行われた。実際は真正面に諏訪湖の絶景が広がっているわけではないが、古きよき日本の情感に満ちている旅館である。石川県・和倉温泉にもこういった日本家屋の温泉旅館があるが、凄く癒される空間である。


■島田陽子の美しさが日本映画界を制覇していた時代


島田陽子 犬神家の一族
島田陽子(1953− )扮する珠世の登場シーンの美しさ。沈むボートから珠世を救出するシーンでのコマ送り、静止画の組み合わせのセンスがかなり良い。珠世のような強い意志を持ってはいるが、自己主張が激しいわけでもないという奥ゆかしい深窓の美女を演じさせると当時の島田陽子は抜群にはまる。丁度同じ頃に作られた『白い巨塔』(1978〜1979)とほとんど同じ役柄ではあるのだが、この頃の島田陽子の魅力は、手の届かない品のよさにあったのである。

あの瞳孔が開く目はこういった作品や、ハマー・ホラーにはぴったりである。川口恒に襲われ、乳首がぽろりと見えるところなどもハマー・ホラーのヒロインの役割そのものである。


■それにしても個性的な役者が勢揃い


犬神家の一族

「嘘です!その遺言状は偽物です!」

しかし、本作は濃い役者が多く出演している。三姉妹の残りの2人を演じるのは『静かなる決闘』(1949)で可憐な令嬢を演じた三條美紀(1928− )と草笛光子(1933− )である。この三姉妹の存在感の妙こそが本作の見所でもあるのだが、遺言状のシーンでのこの三者の迫力はちょっと常人ではない。

そして、忘れてはいけないのがこの頃なぜか大作映画の主役を張っている事の多い『あしたのジョー』ことあおい輝彦(1948− )である。彼が佐清と青沼静馬を演じているのだが、声の使い分けといいかなりいい芝居をしている。それにしても静馬仕様のマスクはなかなか素晴らしい出来である。そして、何度見てもマスクを捲り上げると顔面破壊された顔の下半分が映し出されるシーンはグロテスクである。

犬神の残りの兄弟を地井武男(1942− )と川口恒が演じている。さらに金田龍之介、小林昭二、大滝秀治、三木のり平も出演しているが、特に印象的なのはこの2人である。「しょれでわ〜」とかやたら舌足らずな三谷昇と盲目の琴の師匠を演じる岸田今日子(1930−2006)である。ちなみに高峰三枝子の出世作『暖流』(1939)の原作者・岸田國士は彼女の父親である。

そして最後に忘れてはいけないのが、
「世の中の人間には二種類しかいない。悪いヤツか、いいヤツ」と言っていい人そうな表情をする加藤武である。そう「よし!わかった!」の署長さんである。


■横溝ワールドといえばこれ!


犬神家の一族
湖上に逆さまに突き刺さり、脚だけ浮き上がっているマネキンのような死体。もうこの発想は美しいとしか表現しようがない。さらには、菊人形のオブジェの一つとして陳列された死体の首と琴糸で絞殺され、屋根の天窓に晒される死体。

こういった死体の見栄えは決して素晴らしい出来ではないのだが、何よりもイカスのが発見した時のリアクションなのである。まずは菊人形の首を発見する金田一君の驚きようはかなり強烈!「うううう〜〜」と雄たけびを上げるのである。

さらに発見者のテンションはどんどん上っていくのだが、次に天窓の死体を発見する川口晶なぞは「ギュエエ!」と千葉真一ばりの気合とも悲鳴ともつかぬ声をあげて硬直してクサイ失神をしてくれるのである。そして、きわめつけは同じく晶が発見する逆立ちオブジェの発見シーン。

本物のガマガエルを抱きしめながらキチガイの風体で
「面白いことしてるわね〜あたしも仲間に入れてよ」と呟くのである。かなり壊れてる感たっぷりで怖すぎる・・・

しかし、この死体発見のリアクションこそが東宝・横溝ワールドの楽しみ方の一つなのである。恐らく全5シリーズ通して最高のリアクション・シーンは『病院坂の首縊りの家』で風鈴にぶら下がった生首を発見する金田一と草刈正雄と小沢栄太郎と清水紘治のシーンである。


■そして、最後は高峰三枝子の名演


高峰三枝子
「おだまんなさい!大体あんたは何なんです!あなたは何の権利があって人の家のことに首を突っ込むんです!」

この時の高峰三枝子の吊り上がった狐のような目つきの迫力。そして、金田一から色々な新事実を聞かされ、変化する驚きの表情からは、色気さえも漂ってくるほどに悲しい女の艶やかさがにじみ出ていた。

特に佐清との対面シーンなんかは観客をぐいぐいと引き込んでいく見事な芝居を見せてくれている。
皆の前で自白する時の物の怪のような美しさ。そして、最後の殺害シーンで小道具係のミスにより、鮮血を顔面に浴びながらも熱演するシーン。このシーンは誠に痛い演出上のミスであり、高峰もただただ芝居を続けることだけに専念する結果となったが、それはそれで魅力的だった。

そして、物語は終焉を迎え、金田一が報酬の計算をする余韻。このラストにおける小沢栄太郎の素晴らしい安堵感漂うオヤジっぷり。やはりこういった横溝ワールドには、爽やかな人情味溢れる締めくくりが重要である。そして去っていく金田一の哀愁をもって物語は締めくくられるのである。


■犬神家の呪い


犬神佐兵衛が巨万の富を稼ぎ出した方法は、戦争中に麻薬を軍部に密売したことによるらしいのだが、どうやらこういうことは実際に特務機関により戦時中に行われていたらしい。しかし、それ以上にある意味怖いのは、この作品に関わった多くの出演者が麻薬で逮捕された事実である。

まずは本作公開の翌年1977年に高峰三枝子の長男が覚醒剤所持及び密売関与の容疑で逮捕されている。ちなみにこの時保護観察になったこの長男の保護司となったのが小暮実千代であった。さらに1978年に川口浩の弟川口恒と妹晶も覚醒剤所持により逮捕されている。


■空前の横溝正史ブーム巻き起こる


この作品の公開に前後して、角川書店は横溝正史フェア≠開催した。そして、空前の横溝正史ブームが巻き起こることになった。一方映画の方も、邦画史上最高のメディア広告戦略により、結果的には1976年の邦画興行収入第二位(15.6億円)に輝いた。ちなみに第一位は『続・人間革命』だった。

本作の成功により角川春樹事務所の第二弾映画作品として『人間の証明』が製作されることになるのである。こうして新しい邦画の流れが始まったのである。そして、東宝にて石坂浩二主演で更に金田一シリーズ4作が作られることになるのである。

− 2007年8月9日 −


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