HOME
■サイト内検索

■洋画
 □カタカナ順
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 □クラシック
 □ドラマ
 □コメディ
 □サスペンス
 □アクション
 □ポリス
 □スパイ
 □犯罪
 □カー
 □ミュージカル
 □史劇
 □文芸
 □戦争
 □西部劇
 □アドベンチャー
 □パニック
 □ギャング、マフィア
 □SF
 □ホラー
 □スポーツ
 □香港
 □ドキュメント
 □アニメ
 □エロス
 □B級
 □アカデミー賞
 □カンヌ映画祭
 □ヴェネチア映画祭



■邦画
 □ひらがな順
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 □名作
 □ドラマ
 □喜劇
 □サスペンス
 □アクション
 □刑事
 □時代劇
 □戦争
 □文学
 □パニック
 □東映ヤクザ
 □ギャング、ヤクザ
 □特撮
 □怪奇
 □ドキュメント
 □アニメ
 □エロス
 □B級
 □海外映画祭受賞
狼   (1955・近代映画協会)
■ジャンル: ドラマ
■収録時間: 128分

■スタッフ
監督・脚本 : 新藤兼人
製作 : 糸屋寿雄 / 山田典吾 / 能登節雄
撮影 : 伊藤武夫
音楽 : 伊福部昭

■キャスト
乙羽信子(矢野秋子)
高杉早苗(藤林富枝)
浜村純(原島之男)
殿山泰司(三川義行)
菅井一郎(吉川房次郎)
信欣三(山本秀夫)
小沢栄太郎(支部長)
狼
現在にも通じる社会的な閉塞感が画面から臭ってくるほどに描写されている作品。しかし、残念ながらテーマの尻切れトンボさゆえに傑作とはいえない作品。ただし、小沢栄太郎の姿に現在の多くの就職活動経験者はぞっとするはず。まさにマルチの典型である。

■あらすじ


保険の外交員として働く秋子(乙羽信子)には唇に障害のある一人息子がいる。一日も早く息子の唇を手術してやりたいのだが、夫にも戦争により先立たれ、日々の生活費にも苦しむ始末。外交員になり5ヶ月が過ぎようとしたが、一向にノルマが達成できそうにない生活に追いつめられた秋子と同僚の4人は、郵便局の現金輸送車を襲撃する決意をする。


■現在にも通ずる見事なテーマ


狼
ある意味現在にも通用するこの社会の不平等のシステム。とにかく保険会社の描写が実に見事である。昨今の多くの会社がコミッション制度という、失業率の高さに便乗した供与システムを取っている。多くの会社が薄給で時間外労働しなければいけないように追い込んでいる。

1950年代もそうであったように安易にお金を稼ぐことに終始しようとする気持ちが生まれてきても当然なくらい現在の世の中は可能性に満ちていない。まさに蜘蛛の糸のように張り巡らされた中を醜くもがき苦しんでいるだけのように見えてくる。

「今は勝ったものだけが生き残る時代なんです」

このセリフを響きのいい言葉に置き換えると「勝ち組」だよな?ようするに他人を押しのけてでも自分が幸せになればいいという考え方である。



■リアルな弱肉強食の論理描写


本作の保険会社においてもそうだが大層な大義名分をのたまうのだが、要するに口八丁で親類縁者からでも契約を取るか、まずは自分が契約しろということなのである。現在においてもそうなのだが、まさに営業マンを育てていくよりも即戦力で使えの発想である。

ここで即戦力の言葉のトリックを明確に解明しよう。
即戦力とは明確なる使い捨てと言うことである。つまり即戦力=絶えず休みなく働けと言うことなのである。まさに中世の奴隷的発想である。つまりあなたは利益を生むために今日から生きていくのですよ。そのことだけを考えてと言うシステムなのである。

そういった非情のシステムの中で人間性を削り取って生活しつつさらに家族を養っていかなければいけない場合、その膨大なストレスと貧しさゆえに容易に家庭崩壊に向うことくらい分かりそうなものだが、昔も今も日本においてはそういった問題点を直視しようとしない。そういう弱肉強食の社会システムの中で弱者はどうやって豊かな生活を掴んでいけばいいのか?新藤兼人の見事な描写が、5人の絶望を画面上に伝わらせるのである。


■「自殺をするか?強盗をするか?二つにひとつですな」


狼 狼
輸送車現金強奪をする5人は、どの人も真面目な人たちである。それぞれに子供や妻といった養うべき扶養者がおり、かつかつの状態で養っているので、その扶養者の存在が重荷になるばかりで、決して安らぎにはならない。でも、5人は逃げずに立ち向かうのである。その結果が強奪である。

今の感覚なら蒸発すればいいじゃないかと思うだろうが、この5人はそれだけ責任感が強いのである。
そして、責任感が人一倍強いがゆえに犯罪を起こしてしまうのである。この人間性の矛盾の描き方は見事としか言いようがない。

「人間と人間をつないでいるものはやっぱりお金なんじゃないかしら」


お金がないからこそ精神的な安定さえも認められない5人が強奪後、後ろめたさ一杯にお金を使う終盤が物悲しい。貧乏が理由で行われた犯罪がこれほど悲しくも胸を打つものなのかと本作によって改めて実感させられる。


■多くの名優の無名時代が見れる


本作は現在振り返ってみると多くのエキストラ同然の役柄の役者達が大成しており、想像を絶する豪華キャストとなっている。乙羽信子、高杉早苗、浜村純、殿山泰司、菅井一郎、信欣三、斎藤美和、下元勉、東野英治郎、三島雅夫、小沢栄太郎、北林谷栄、清水将夫、宇野重吉、英百合子、菅井きん、奈良岡朋子、左卜全、下絛正巳、金子信雄、安部徹、芦田伸介、三崎千恵子、田島義文である。

この中でも主役の5人を除き光る芝居を見せているのが、信欣三と東野英治郎と小沢栄太郎と宇野重吉である。宇野重吉なんかの芝居を見ているとやはりこの人には一種独特の味わい深さがあることに気づかされる。いわゆる人情の寸止め感がある人である。


■味わい深いセリフ


「しかし、映画界というところは、役に立つ人間には、思い切り親切ですが、ダメになりますとどこよりも冷たいところでして」


と言う菅井一郎がすごくいい味を出している。乙羽信子の次に印象深い5人のうちの一人だった。しかもこのセリフ菅井は元脚本家という役柄だが、このセリフをかいたのが新藤であることを考えると実に興味深い。

「部長さんはね。親類縁者や友人関係を泣きつけとおっしゃいますけどねえ、貧乏人の親類はやっぱり貧乏でしてな。昔の仲間のところへ行きゃ逆に金を貸せってなもんですよ」

と憎々しい保険会社の支部長小川栄太郎に吐き捨てるように言う信欣三が実に印象深い。


■終わらせ方に芸術性を感じない


狼 狼
新藤兼人監督の作品は、終盤までにかけてかなり良いものが多いのだが、最後の最後はいつも見ている側にボールを投げておしまいと言うパターンが多い。こういうパターンは、社会的な問題をテーマにしたドラマにやたら多いのだが、
彼の場合、ボールの投げるタイミングが速すぎる。

もう少し彼がボールを投げるタイミングを遅らせた映画作りをしていたならば、彼に世界的な普遍性が生まれたことだろう。本当に才能溢れる脚本家であり、監督だと思うが、この頑ななまでのボールを手放すタイミングの速さが、彼の評価を今ひとつはっきりと名匠と断言しづらい点だろう。


■サム・ペキンパーにも影響を与えた作品


ちなみに冒頭の幼虫に蟻が群がっているシーンは、
サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』(1969)の冒頭の蠍に蟻が群がっているシーンと凄く似ている。時代的にはペキンパーの方が遥かに後なので、恐らくあのシーンはどこかで本作を見たペキンパーが取り入れたのだろう。スローモーションを黒澤の『七人の侍』に刺激されて取り入れたように、ペキンパーは50年代の日本映画が大変好きな人だった。

音楽を伊福部昭が担当しているので、前年に作られた『ゴジラ』に非常によく似ている。ちなみに乙羽が保険の勧誘にお伺いするレビューのトップスター役で
曙ゆりが特別出演している。彼女は1953年まで松竹歌劇団のトップスターで、同時期に乙羽が宝塚歌劇団でトップスターだった事を考えると興味深い共演である。

− 2007年6月13日 −


当サイト内で使用している画像・映像キャプチャー等は、あくまで映画文化の熟成及び芸術復興を標榜する当サイトの意図により、
「映画を文章だけで云々することの不誠実さ」と「目で感じる芸術及び娯楽」である映画に対する敬意の姿勢で使用しております。よって著作権等は、全て各製作者・会社に帰属します。
画像・映像キャプチャー等の使用に関して表記の問題がある場合、又は削除依頼がある場合は迅速に応対させていただきますのでご連絡ください。
このサイトは、100%非営利に、純粋に「映画解釈の究極」を求めて運営されています。取り上げるべき作品・感想等ございましたらどんどんメールください。
当サイトはリンク・フリーです。
Copyright (C) 2007−2008 Geijyutsu Taizen. All Rights Reserved.
Mail:webmaster@summaars.net