HOME
■サイト内検索

■洋画
 □カタカナ順
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 □クラシック
 □ドラマ
 □コメディ
 □サスペンス
 □アクション
 □ポリス
 □スパイ
 □犯罪
 □カー
 □ミュージカル
 □史劇
 □文芸
 □戦争
 □西部劇
 □アドベンチャー
 □パニック
 □ギャング、マフィア
 □SF
 □ホラー
 □スポーツ
 □香港
 □ドキュメント
 □アニメ
 □エロス
 □B級
 □アカデミー賞
 □カンヌ映画祭
 □ヴェネチア映画祭



■邦画
 □ひらがな順
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 □名作
 □ドラマ
 □喜劇
 □サスペンス
 □アクション
 □刑事
 □時代劇
 □戦争
 □文学
 □パニック
 □東映ヤクザ
 □ギャング、ヤクザ
 □特撮
 □怪奇
 □ドキュメント
 □アニメ
 □エロス
 □B級
 □海外映画祭受賞
オリエント急行殺人事件   MURDER ON THE ORIENT EXPRESS(1974・イギリス)
■ジャンル: サスペンス
■収録時間: 128分

■スタッフ
監督 : シドニー・ルメット
製作 : ジョン・ブラボーン / リチャード・グッドウィン
原作 : アガサ・クリスティ
脚本 : ポール・デーン
撮影 : ジェフリー・アンスワース
音楽 : リチャード・ロドニー・ベネット

■キャスト
アルバート・フィニー(エルキュール・ポワロ)
イングリッド・バーグマン(グレタ・オルソン)
ヴァネッサ・レッドグレーヴ (マデリーン・ホワイト)
ジャクリーン・ビセット(アンドレニ伯爵夫人)
ショーン・コネリー(アバースナット大佐)
リチャード・ウィドマーク(メリー・デベナム)
賛否両論の作品ではあるが、エルキュール・ポワロの世界独特の過度のゴージャスさが満喫できるれば問題なし!やはりポワロものの醍醐味は現実感よりも突き抜けたゴージャス感。謎解きも魅力的だが、このゴージャスな感覚についていけるかついていけないかはその人の心のゆとり次第だろう。

■あらすじ


オリエント急行の閉ざされた密室の中でアメリカ人の大富豪が殺害された。容疑者は1人の車掌と、12人の一等客室の乗客達。偶然その場に居合わせた名探偵エルキュール・ポワロが事件を任されることになる。やがて全く関係のない13人の容疑者に奇妙な共通点を見つけ出すのだった・・・


■文句なしの豪華キャスト



この作品からオールスター・キャストによるクリスティ推理サスペンスの映画化は、『ナイル殺人事件』(1978)、『クリスタル殺人事件』(1980)、『地中海殺人事件』(1982)、『ドーバー海峡殺人事件』(1984)、『死海殺人事件』(1988)へと続いていく。この作品もアルバート・フィニーから始まり、ショーン・コネリー、イングリッド・バーグマン、ローレン・バコール、バネッサ・レッドグレイブ、リチャード・ウィンドマーク、マーティン・バルサム、マイケル・ヨーク、ジャクリーン・ビセット、ジョン・ギールグット、アンソニー・パーキンスとざっと羅列しただけでも11人の有名俳優が共演しているのである。

リチャード・ウィンドマークは最高に惨めな殺され役にも関わらず共演者の豪華さにときめいて出演を快諾したという。実際一番この豪華キャストに緊張したのは俳優達自身だったという。初日のリハーサルでは、皆ががちがちに緊張していた。しかし、蓋を開けてみると映画の中身も、その俳優の豪華さに決して負けていない見事なできばえとなった。本作でバーグマンはアメリカ・イギリス両方のアカデミー助演女優賞に輝き、ジョン・ギールグットもイギリス・アカデミー助演男優賞に輝いた。


■真のセレブリティー


オープニングのタイトル・バックからかなりの豪華さをかもし出している。今現在間違ったセレブという言語の使用の仕方をしている日本人が多いが、そう言った人々に、この作品のファッションや雰囲気を見てもらいたい。
セレブとは、醜さを堂々と自慢してさらけ出す類の行為を指す言葉でもなければ、群れをなして同じ方向に向かう群集を指す言葉でもないのである。セレブとは、正確には『有名人』、大体においては、余人の考えられない豪華絢爛な生活を行っている人々のことを指すのである。

つまり、スウェットにヴィトンの財布や、セルシオの20系の改造車や、間違っても中古車のアメ車を改造している類の人々のことは言わないのである。そういう人々のことは古来昔より、「成金」もしくは「見栄っ張り」と呼ぶのである。セレブ・ファッションという言葉に踊らされている女性を称してはこういうべきだろう。「仮面舞踏会種族」とでも。
つまりは、最近のファッションの概念は、もはやゆきずまりの傾向としてのファッションの基本概念の破壊に走っているのである。

機能性よりも見た目、生活感よりも無機質感、分相応ぶりよりも分不相応さ、優雅さよりも奇抜さなのである。
そして、今時のセレブ・ファッションの多くは、今までださいと考えていたものをただ単にカッコイイと言い張っているだけの代物も多い。つまりは、ゴミ箱に捨てられた何十年前のファッションを拾い上げただけの話なのである。これが今時のセレブ・ファッションの本質だろう。

話は脱線してしまったが、そのくらい、この作品の中で見受けられるファッションは本物であり、私のような若者においてもジェラシーを感ぜずにはいられない代物なのである。ちなみにこの作品の原作は、1934年に書かれたものである。アガサ・クリスティは飛行家チャールズ・リンドバーグの息子の誘拐殺害事件(1932)をヒントに書き上げたという。


チャールズ・リンドバーグ子息誘拐殺人事件



チャールズ・リンドバーグ(1902−1974)とは、1927年に世界初の大西洋単独無着陸横断飛行に成功した人である。1932年3月1日、当時1歳8ヶ月だったリンドバーグの息子ジュニア君がニュージャージ州の豪邸より誘拐された。身代金を支払うも5月12日に豪邸付近の森でジュニア君は腐乱死体で発見された。1934年9月36歳のドイツ人移民労働者ブルノ・ハウプトマンが逮捕され、1936年4月3日処刑される。彼は電気椅子の処刑の直前まで無罪を主張していた。

実際に1932年6月10日には警察の執拗なる尋問にノイローゼになった小間使いのヴァイオレット・シャープは服毒自殺した。捜査主任は当時ニュージャージ州警察長官H・ノーマン・シュワルツコフであった。彼は、「砂漠の嵐」作戦のシュワルツコフ将軍の父親である。現在においては、ハウプトマンを無罪とし、リンドバーグ自身を犯人だとする説もある。そして、この誘拐犯罪こそ、世界最初の身代金誘拐事件と言われている。


■毛皮と帽子と手袋



オリエント急行出発のシーンはとにかく豪華である。特にアンドレニ伯爵(マイケル・ヨーク)&アンドレニ伯爵夫人(ジャクリーン・ビセット)コンビのゴージャスさは圧巻である。伯爵夫人のこの毛皮と帽子だけでも30年代の最先端セレブ・モードがうかがえるのである。

そして、ハバード夫人(ローレン・バコール)の毛皮のコートもまた素晴らしくゴージャスである。昔のオシャレの基本が毛皮と帽子と手袋といった、いかに体の一部を隠し切るかであるということが良くわかる。

ポワロ曰く、オリエント急行の旅は、
「バルザック的だ。赤の他人が3日間― 1つの列車に乗り、エンジンに運命を委ねるのだから・・・」

ちなみに、マイケル・ヨーク(1942− )はイギリス生まれの俳優で、『ロミオとジュリエット』(1968)『キャバレー』(1971)『三銃士』(1973)『オースティン・パワーズ』(1997)が代表作である。彼はこの頃が一番輝いていた時代である。


■オリエント急行の懐古趣味


オリエント急行とは、1883年から1977年までパリ−イスタンブール間を走っていた寝台列車である。第二次世界大戦で運行停止するまでのオリエント急行が真の意味でのオリエント急行だといわれている。本作も1930年代の時代設定なので、その頃のイメージを再現している。ちなみにショーン・コネリーは『007/ロシアより愛をこめて』(1963)でもオリエント急行に乗っているので、本作で二度目のオリエント急行がらみの作品の出演となった。

アガサ・クリスティの作品は、
優雅さと今は失われた懐古趣味を満たすものなのである。その世界には多くの失われた世界観が展開し、2時間もの間その世界に浸りきる喜びを感じる事が出来る人ならば楽しめること間違い無しである。蒸気機関車に乗って旅情あふれる旅を楽しみ、軽快で軽やか且つ華やかな音楽に身を躍らせて見る映画なのである。ちなみに音楽を担当したリチャード・ロドニー・ベネットは英国アカデミー賞の音楽部門受賞に輝いた。


■元祖カメレオン俳優


アルバート・フィニー
(1936− )
実はエルキューロ・ポワロを演じていたフィニーは当時38歳だった。彼は歳相応のポワロに見せるため色々苦労したという。まずは毎朝2時間のメイクアップをほどこし、つやつやの黒髪を保つために、黒いパウダーをミックスしたヘアクリームを仕様していたという。そして、ポワロの体型を作るために体中のあちこちに綿の詰め物をして、背が低く見えるようにした。さらには、外国人訛りにも工夫をこらしたのである。こうした努力の果てに、エルキュール・ポワロは見事に演じられたのである。

イギリス生まれのフィニーは名門王立演劇アカデミーに学び、偉大なる先輩ローレンス・オリビエの紹介で映画界に入る。同級生には『アラビアのロレンス』のピーター・オトゥール、『その男ゾルバ』のアラン・ベイツがいる。1970年にアヌーク・エーメ(1932− )と結婚したが、1978年離婚している。これまで5度アカデミー賞にノミネートされており、『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(1963)でヴェネチア国際映画祭主演男優賞を、『ドレッサー』(1983)でベルリン国際映画祭主演男優賞を受賞している。元祖カメレオン俳優とも言われている彼は、現在も『オーシャンズ12』(2004)など第一線で活躍している名優である。


■アル・パチーノに挟まれて



当初は、アレック・ギネスかポール・スコフィールドがポワロ役の候補に挙がっていたという。フィニーは若すぎるからだので却下されていた。しかし、フィニー自身は大乗り気だったので、結果的にポワロ役を勝ち取ることになる。

それにしても、フィニーが演じるエルキュール・ポワロは、ピーター・ユスティノフが演じる後のポワロとは違い、チビではあるが太ってはいなく、白髪ではなく黒髪のより原作に近い形のポワロになっている。エルキュールとは英語でヘラクレス(ギリシア神話に出てくる怪力の英雄)であるのだが、そんな逞しい英雄の名前が、小男の名前な所もポイントなのである。ちなみにエリザベス女王は大のエルキュール・ポワロ・ファンである。

フィニー演じるポワロも、神経質ではあるが、ちょっとホモっぽさも漂っているところがなかなかよろしい。しかし、最後の方の芝居の迫力は、迫力がありすぎて、アル・パチーノみたいになっているのも、シドニー・ルメットがこの時期『セルピコ』(1973)『狼たちの午後』(1975)とパチーノの演技力にはまっていたことも影響しているのかもしれない。

それにしても、就寝するため一つとってもポワロの周到な準備っぷりが可愛くも可笑しい。ちなみにこの作品には、もう1人老け役をした俳優さんがいた。ウェンディ・ヒラー(1912−2003)である。この作品を見て、一番最初になくなっていった役者さんだろうと想像させるくらいの老け役ドラゴミロフ公爵夫人を演じた彼女はなんと当時まだ62歳だった。イギリス出身の彼女は、基本的に舞台女優ではあるが、1955年『旅路』でアカデミー助演女優賞を受賞している。

 一方ドラゴミノフ公爵夫人のメイド・ヒルデガードを演じたレイチェル・ロバーツ(1927−1980)は、イギルス/ウェールズの女優で、『ハバナの男』(1960)『ピクニックatハンギング・ロック 』(1975)『ファール・プレイ』(1978)が代表作である。1980年精神安定剤を多量に飲み死去した。1962−1971年の間レックス・ハリソンと結婚している。


■ポワロの背の低さを際立たせる女優の背の高さ


赤い龍の刺繍の入った白いガウンの女性の後姿にはどきっとさせられる。ポワロの客室のドアをノックする音に対応したポワロは、この後姿を見ることになる。しかし、この人物は結局誰だったのだろうか?映画の中で説明されていない気がするが・・・それにしても、殺人現場でのアルバート・フィニーとジョン・ギールグッドの対峙シーンの緊張感などさすがである。
舞台俳優はこういった一対一の局面において緊張感を出すのがうまい。

それにしてもこの作品の女優達は皆背が高い。イングリッド・バーグマン173cm、バネッサ・レッドグレイブ177p、ローレン・バコール169p、ジャクリーン・ビセット169pである。ちなみにアルバート・フィニーは175pである。


■イングリッド・バーグマン=情熱


イングリッド・バーグマン
(1915−1982)
バーグマンは、アカデミー賞を3度受賞している代表作は勿論『カサブランカ』(1942)である。本作でローレン・バコールと共演しているが、『カサブランカ』で伝説的共演をしたのが、バコールの夫ハンフリー・ボガートとである。そして、彼女はまた伝説の戦場カメラマン・ロバート・キャパ(1913−1954)との大恋愛でも有名である。そんな彼女が、枯れ果てた女を演じたのである。いわばグレース・ケリーがこのグレタ・オルソン役を演じたようなものなのである。しかし、内気な内面の中に情熱的な熱さを持つバーグマンだからこそ演じられた役でもあるかもしれない。

バーグマンは当初ドラゴミノフ公爵夫人で依頼を受けたが、
私がやりたいのは、このおかしな乳母の役なのと断った。シドニーはドラゴミノフ公爵夫人はの役は物語のプロットに深くかかわる役だよ≠ニ言ったが、バーグマンは本当に乳母をやりたいの≠ニ言い放ったという。

一般的には賛否両論のある彼女のこの作品での受賞であるが、私は、妥当だと見ている。その理由として、
これ程の大女優が、自分自身のオーラを見事に打ち消す地味な役柄に徹しきれた点があるだろう。誰がどう見てもイングリッド・バーグマンらしからぬ芝居であるとうならせるのだが、実際のところは昔からバーグマンは地味な役柄や薄幸なヒロイン役を得意としていた。そして、その延長線上がこの芝居なのである。


■70年代の妖精



この作品は、間違いなくジャクリーン・ビセット(1944− )が最も輝いた作品だった。この豪華スターの中で、妖精のようなオーラを放っているのだから凄いとしか言いようがない。16歳までバレエをしていた彼女はリチャード・レスター監督の目にとまり『ナック』(1965)でデビューした。

彼女は以外に知られていないがイギリス人である。父はスコットランド人の医師、母はフランス人の弁護士である。『007/カジノロワイヤル』(1967)『ブリット』(1968)『大空港』(1970)『アメリカの夜』(1973)『ザ・ディープ』(1977)が代表作で、フランス語に堪能で、結婚しない女性で有名である。ちなみに1978年にはジャン=ピエール・カッセルと『料理長殿、ご用心』で共演している。

この人の繊細な美しさと大きな瞳は、整った顔の美女好きな私のプライベートにも通じる。小さな顔こそ美人の第一条件と言われているが、ジャクリーン・ビセットの場合は、オリビア・ハッセーにも似た清楚な美貌とは裏腹なナイスボディと長い美脚のギャップがまたよいのである。それにしても彼女は監督と作品に恵まれなかったとしか言いようがない。これ程の美貌と存在感を持ってすれば、世界の映画界に輝く大女優になれたはずである。やはり、
人と人との出会いとはすごく重要なものである。

ジャクリーン・ビセットが役の小ささについてシドニー・ルメットに尋ねたときに彼はこう答えたと言う。
「つまらぬ役はない。つまらぬ俳優がいるだけだ」と。私は基本的に喫煙する女性は、嫌いであるが、この作品のジャクリーンに関しては喫煙する姿も格好いいのでオッケーである。こんないい女を助手席に乗せるなら車にたばこの臭いが染み付いても諦められるなというレベルの美女である。


■そして、バネッサまでいる贅沢さ



バネッサ・レッドグレイブ
(1937−)
イギリス生まれ。父は俳優のサー・マイケル・レッドグレイブで母も女優と言う演劇一家に生まれる。8歳のときからバレエを学び、1957年舞台デビュー。1966年『モーガン』でカンヌ映画祭女優賞受賞。69年『裸足のイサドラ』でも同賞を受賞、1977年に『ジュリア』でアカデミー助演女優賞を受賞する。反体制活動家としても有名。1961年映画監督トニー・リチャードソンと結婚。2児をもうけるも67年離婚。フランコ・ネロとの間にも一児もうけている。

この作品のバネッサは輝くばかりに美しく、そして、少女のようにいたずらっぽい眼差しである。特に、最後に2人の母子と乾杯するシーンでジャクリーンにウィンクする姿は格好良すぎる。この人が出ている作品には基本的に駄作が少ないといってよいだろう。それだけ映画出演には気を使っている女優である。

彼女の恋人のアバースナット大佐役でショーン・コネリーが出演している。いつもの男の色気むんむんのジェームス・ボンド・バージョンとは違い一本気なアイルランド気質の男を演じていて、いい空気をかもし出している。

そして、なかなか興味深いのは1980年にアガサ・クリスティ原作、ガイ・ハミルトン監督の『地中海殺人事件』に出演していた二人の名優がそろいにそろって出演していることである。コリン・ブレイクリー(1930−1987)、デニク・クイリー(1927−2003)である。コリンは自称私立探偵ハードマン役、デニスはフォスカレッリ役で出演している。コリン・ブレイクリーは『ピンク・パンサー3』(1976)でクルーゾー警部に振り回される刑事役や『わが命つきるとも』(1966)にも出演している。デニス・クイリーはイギリスでもかなり有名な舞台俳優である。


■本作がサスペンス映画の新しい概念を作り出した



「深夜 時計の鉄の舌が告げる。まさに12時。 突然12という数が私の頭に渦巻いた。被害者の傷の数は?マックィーン君。君が見せた2通の脅迫状でそれぞれ使われた文字の数は?陪審員の定員は?ピエール・ミッシェル、私と被害者を別にして寝台車の乗客の数は?」

乗客全員を集めて熱演するポワロ。そして、ことが発覚するにつれてのハバード夫人役のローレン・バコールの表情の変化が誠に素晴らしい。
実は一番嫌われていた無頓着な中年未亡人は、実は乗客の誰からも慕われていた情深い未亡人だったのである。そして、何よりも興味深いのがこの最後の犯行追及のポワロのシーンでのカット割りである。このカット割りが2年後に日本の大ヒットサスペンスに反映されていることがよく理解できるのである。

そう市川崑監督の角川映画第一弾『犬神家の一族』である。ちなみにこの作品の脚本家のクレジットの中に久里須亭とあるがこれはクリスティ・ファンの市川監督の変名である。この作品は、アルバート・フィニーのオーバーアクトに隠れ気味であるが、サスペンス映画及びドラマにおいて画期的な手法を初めて使用した映画なのである。
こまかいカット割りによる誇張したフィードバックをはじめて手法を使用した作品として。つまり全く同じシーンを違うレンズで違う角度から撮影したのである。

この作品は全て最後の2分のカクテルで乾杯のシーンのためにあるのである。全登場人物が母子を相手にシャンパングラスを重ねあうシーンである。このおしゃれさにこそ、この配役の価値が出るというものなのである。そして、何よりもこのシーンを光り輝かせているのは、カット無しで名優に芝居をさせているところなのである。


■シドニー・ルメットの分岐点


ジャン=ピエール・カッセル
(1932− )
車掌のピエールを演じてたこの役者さん雰囲気が誰かに似ていると思えばなんと、ヴァンセン・カッセルの父親だった。『素晴らしきヒコーキ野郎』(1965)『パリは燃えているか』(1966)『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(1971)『三銃士』(1973)が代表作である。

ジョン・ギールグッド(1904−2000)
イギリスを代表するシェイクスピア俳優。王立演劇アカデミー出身で1921年に舞台デビューする。ローレンス・オリビエ、マーロン・ブランドは彼に師事していた。1981年に『ミスター・アーサー』でアカデミ助演男優賞受賞する。そして、1953年にナイトの称号を得る。ギールグッドは私生活でもかなりのシェイクスピア研究家であり、シェークスピア劇の新人俳優の面倒見がすごく良かったという。時には生活に困窮している若手俳優に金銭的援助をしていたと言うからその器の大きさがうかがえる。代表作は『ハムレット』(1948)『ジュリアス・シーザー』(1953)『ロミオとジュリエット』(1954)『ベケット』(1964)『ガンジー』(1982)『シャイン』(1995)。

本作では、殺された大富豪ラチェット(リチャード・ウィンドマーク)の執事ベドウズを演じるが、この気品と物腰は並みでは出せないだろう。
こういうサスペンスにおいて、一番難しい役柄は実は金持ちの貴族よりも執事や召使なのである。

シドニー・ルメットは言う。「この作品を撮って最も満足しているところは、陽気なムードの映画を撮る方法を学べた点だ。こう思えて仕方がないんだ。本作を撮らなければ『ネットワーク』はなかった。『ネットワーク』ではシリアスさを、ユーモラスな陽気さで覆い隠すことができた。本作での経験があればこそだ」

− 2007年5月23日 −


Copyright (C) 2007 Geijyutsu Taizen. All Rights Reserved.
Mail:webmaster@summaars.net