HOME
■サイト内検索

■洋画
 □カタカナ順
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 □クラシック
 □ドラマ
 □コメディ
 □サスペンス
 □アクション
 □ポリス
 □スパイ
 □犯罪
 □カー
 □ミュージカル
 □史劇
 □文芸
 □戦争
 □西部劇
 □アドベンチャー
 □パニック
 □ギャング、マフィア
 □SF
 □ホラー
 □スポーツ
 □香港
 □ドキュメント
 □アニメ
 □エロス
 □B級
 □アカデミー賞
 □カンヌ映画祭
 □ヴェネチア映画祭



■邦画
 □ひらがな順
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 □名作
 □ドラマ
 □喜劇
 □サスペンス
 □アクション
 □刑事
 □時代劇
 □戦争
 □文学
 □パニック
 □東映ヤクザ
 □ギャング、ヤクザ
 □特撮
 □怪奇
 □ドキュメント
 □アニメ
 □エロス
 □B級
 □海外映画祭受賞
キートンのセブン・チャンス   SEVEN CHANCES (1925・アメリカ)
■ジャンル: コメディ
■収録時間: 60分

■スタッフ
監督 : バスター・キートン
原作ロイ・クーパー・メグルー
脚本 : ジーン・ハーベッツ / クライド・ブラックマン / ジョゼフ・ミッチェル
美術フレッド・ガブリー
編集バスター・キートン

■キャスト
バスター・キートン(ジミー)
ロイ・バーンズ(ビリー)
ルス・ドワイヤー(メリー)
ジーン・アーサー(受付嬢)
キートンがスーツ姿のままで泳いで、転んで、転げまわって、飛んで、そして、疾走しまくる!言葉の領域を超えた笑いを、サイレント映画の中で表現したキートン。彼の『笑い』に対するシリアスな姿勢が、いかに不変の笑いを生み出したかという事を実感して欲しい。これを見れば消費される「笑い」と不変的な「笑い」の違いが明確に分かるはずである。

■あらすじ


破産寸前の青年実業家ジミー(バスター・キートン)。彼の前に一人の弁護士が現れるが、裁判所からの呼び出し命令かと勘繰り、ずっと避けていた。そして、遂に弁護士から話を聞かされることになったのだが、なんと「27歳の誕生日の午後7時までに結婚すれば700万ドルの遺産相続ができる」という話だった。しかし、今日がジミーの27歳の誕生日だった。慌てて結婚相手を探すジミーなのだが・・・


■チャップリン、ロイド、そして、キートン



私が見た初めてのバスター・キートンが本作である。それまでチャップリンでしかサイレント・コメディを見たことのない当時高校生の私にとっては、このキートンの作品はすごく斬新で刺激的であった。

『700万ドルの遺産を手に入れる条件は今日の午後7時までに結婚すること』もうこの発想からして見事である。女に全くもてない小男がそのために手当たり次第に女性をナンパしまくる前半部分も派手な面白さはないが表現が細やかで見ていて軽快である。

ちなみに最初の方のシーンで、カントリー・クラブの受付嬢役でまだデビューしたてのジーン・アーサー(1900−1991)が出演している。彼女が光り輝くのはこの作品から11年後のフランク・キャプラの『オペラ・ハット』(1936)からであるが、本作の受付嬢役のきりっとした雰囲気もわずかな出番とはいえかなり印象深い。


■生真面目な青年が黙々とナンパするだけでひたすら笑える



とにかく何度失敗してもめげずに黙々と女性に声をかけるキートンのキャラクターが凄く可笑しい。キートンのコメディは要領が悪く生真面目な主人公という点が特徴である。

この極めてアメリカ的ではなくヨーロッパ的な主人公の性格付けが何よりものキートンの特徴だろう。キートンを語るときにチャップリンは過小評価されがちになるが、チャップリンのリアクションとキートンのリアクションの相違は素晴らしいほどに対極に位置しており、そこに双方の喜劇人としてのオリジナリティのレベルの高さが伺えるのである。

あくまでもチャップリンは人間の「ずるさ、あさましさ」の中から共感と笑いと涙を紡ぎだし、キートンは人間の「不器用さ、誠実さ」の中から共感と笑いを紡ぎ出しているのである。


■笑いとはさりげなく必死にやるべし!



そして、最も個性に欠ける女性にもてなさそうな映画映えしない男が、脚光を浴びるところにキートン・コメディの面白さがある。今でもどこにでもいそうな人のいいむっつりスケベな青年。そんなキートンが700人もの花嫁に追いかけられる姿は、普通の人版『ビートルズがやって来る!ヤァ!ヤァ!ヤァ!』である。
もてない小男が女性に追いかけられる楽しさ。この発想は実に単純だが、この表現力は見事である。本当に必死に逃げる姿がより笑いを誘うのである。

ちなみに1999年にクリス・オドネル主演でリメイク作品が作られているが、キートンとクリス・オドネルとでは比較するだけ野暮だろう。最近の映画俳優は、細かいカメラの位置やカット割りの影響により、芝居のダイナミック感と切れが失われている。

とかく昔のスターは、スクリーン・サイズの芝居をしていたが、昨今のスターはDVDサイズになっているのである。


■キートンの魅力は「画面からはみ出しそうな」所にある



そして、花嫁集団からの逃亡が、突如『ゴレンジャー』並みの理不尽な場面転換で、荒野へと移行していく。浅い川に飛び込んででんぐり返りするキートン。『モダンタイムズ』でチャップリンも似たようなことをしていたが、こういった身体の動き一つ取ってみても切れていて実に素晴らしい。

さらには崖から木の枝に飛び移るキートン。まさに『ポリス・ストーリー』でジャッキー・チェンが披露した伝説のシーンの一つであるショッピングモール・スタントを髣髴させる。こういった一連の逃亡シークエンスを見ているだけでも、キートンの生み出した笑いの一つ一つが如何に後世の映像作家に影響を与えているかが分かる。


■単純さを追い求めることが何事においても究極である



そして、坂を文字通り転げ落ちるシーン。この転げ落ち方がまた尋常な人間業ではなく素晴らしい。とにかくキートンの笑いの根本には、転倒の仕方ひとつにしても笑いに徹底した魂がこもっているのである。

現代人は「お笑い」に接する機会が増えている。だからこそよく分かるだろうが、
「会話の妙で笑わせるよりも、単純な動きの中で笑わせるほうが遥かに高等技術なのである」

現代人がバスター・キートンを見て感動するのは、このキートンの何事にも全身全霊をこめてぶつかっている姿ゆえだろう。こういう俳優さんは現代においては非常に少ないがそれゆえにキートンは今日においても現代人の心を打つのである。

現代は全て要領よくそつなくこなしたものが賢いと思われがちな時代であるが、多くの人々はそういった無個性な生き方に縛られ続けられる事に拒否反応を示し始めているのである。そして、そういった感覚を爽快に呼び覚ましてくれる活劇スターがキートンなのである。だからこそ彼は現代人にも受け入れやすく愛され続けているのである。


■ハリボテでもかなり危ないスタントの数々




岩石が落ちてくる有名すぎるシーン。いちいちキートンのリアクションが素晴らしい。決して誇示せずに必死に観客の笑いを演出するキートン。岩石から逃れるために木にしがみついていると木に岩がぶつかり、しがみついている木ごと倒れるシーンなんかは頭から地面に突っ込んで倒れこんでるのでかなり危ないはずである。

この岩石から逃れるシーンにおいても、張りぼての岩ではあるが、これだけの加速がつくからにはそれなりに重量があるはずで、危ないことにはかわりない。キートンは作品の中で何回も実際に大怪我をしているが、こういうスタントを見ているとそういう事実もうなずける。


■小手先よりも、まずは走れ!それが生きるということ



この「走り」のためだけに本作は存在しているとも言える。映像の中で「走る」という人間の基本的な表現方法において、この作品を超える「走り」の映像は今だ存在しないといっても過言ではない。

この時代からコメディ映画の歴史を手繰っていくと、現代のコメディ作品のほとんどはその場しのぎの女の裸やホモネタ、下ネタだけを笑いのスパイスにしている芸術性のかけらのないものが氾濫していることを痛感させられる。真剣さよりも、和やかさの中で作られがちな現代のコメディ映画が、キートンたち喜劇王時代のコメディ映画を超えられないのも無理のない話しである。
基本的に和やかさからは、内輪の自己満足のみが氾濫し、映画のレベルは低下するのみなのである。

そして、サイレント映画とは実は、映画の進化した形が最初に存在したという奇妙な藝術形式なのである。
その世界の中ではセリフも効果音も音楽も存在しないのである。単に技術的にそういったものを取り込む技術がなかったからなのだが、80年以上経った今振り返ってみると映像の魅力が最も発散されている映画が、今日の作品よりも遠き過去のサイレントの作品の方に多い。

技術の進化に対して、人類に課せられた義務は明確に、技術に支配されないことである。人類が技術革新の波に飲み込まれ、技術に支配され生きていくことから、滅亡と人間性の欠如と人間本来の生き方の喪失が生まれるのである。

バスター・キートンを見ていると、現代人に失われた大切な感性の多くが発見できるのである。だからこそ、キートンの映画は、観ていて笑いから涙を含んだ喪失感に対する空しさを、追体験させてくれるのだろう。
人生を手先を動かすことに終始するよりも走ることに終始したい、そう思い出させてくれる男なのであるバスター・キートンという男は・・・。

− 2007年4月21日 −


Copyright (C) 2007 Geijyutsu Taizen. All Rights Reserved.
Mail:webmaster@summaars.net